こんにちは、らちょです。今回は線形代数についてのお話です。
はじめに
みなさん、線形代数を勉強する上で対角化というキーワードを一度は耳にしたことがあるかと思います。(まだ、習ってない人も必ず出てくるので安心してください。笑)
ある行列から対角化行列を求めること自体は面倒な計算をひたすらこなすだけですが、対角行列を求めたところで何が嬉しいんだろう、図形的には何を表しているんだろうと疑問に思った方も少なくないと思います。
そこで、今回は対角化についての応用を具体的な例を二つ紹介します。概要としては以下の通りです。
- 行列のn乗
- 空間の方程式(今回は楕円体についてです。)
この記事を読めば、少し対角化についての理解が深まると思いますので、一緒に頑張りましょう!!
対角化のおさらい
まずは対角化について簡単に説明していきます。
そもそも対角行列とは、、
正方行列のうち、対角成分以外の成分がすべて0の行列
と定義されています。
具体的に3×3の正方行列で考えると、次のような行列です。
α=β=γ=1の場合、単位行列となるのですが、これも対角行列の一種になります。
対角行列を見ると、通常の行列に比べて0の成分が多いので、計算がちょっと楽そうに思えますよね。また、列ベクトルで見ると一つの成分で表されているとも解釈できますよね。その計算が楽そう!っていうイメージが対角化の第一歩なのです。笑
対角行列が分かったところで、次にある行列Aをどうやって対角化するのか考えていきます。今回、行列Aを次のように定義します。
Aを対角化するためには、4つの手順をこなす必要があるのですが、少し長くなってしまうので、このページでは手順の概要だけ示しておきます。
- 行列Aの固有方程式から固有値を算出する。
- それぞれの固有値に対応する固有ベクトルを並べる。
- 固有ベクトルに対し、グラム・シュミットの正規直交化法を用いて直交行列Pを求める。
- 対角化行列DをD=P-1APにより、計算する。
詳しい手順はこちらのページに記載しています。同じ数値を用いて解説してあるので、分かりやすいかと思います。
固有ベクトル及び対角化行列の順番の意味[線形代数] – official リケダンブログ (rikedan-blog.com)
固有値の順番を3,3,6としたとき、Aの対角化行列Dは、
となります。
ちなみに直交行列Pは下記のようになります。
ここまでで対角化のおさらいはおしまいです。次からはいよいよ対角化行列の応用になります!今回、例として用いた行列AとDをそのまま活用していきます。
行列のn乗の計算
1つ目は行列のn乗についてです。対角化行列を利用するとn乗の計算がとても楽になります。ただ、行列のn乗に関しては、超有名なのでさくっと紹介していきます。
次のような問題が出されたとします。
対角化を知らない人であれば、この問題は難問ですよね。ずっとAの行列をかけ続けるので、計算が多すぎて途中で心が折れると思います。でも対角化行列を求めることができればこの問題は簡単に解くことができるのです!
なぜかというと対角行列のn乗は、次のように求められます。
え、めちゃ単純ですよね。
対角行列のn乗は各成分をそれぞれn乗するだけで求められるのです!!
さきほど、D=P-1APにより対角化行列を求めましたが、この式の両辺に前からPを後ろからP-1をかけていきます。
上記の性質を利用すると、A=PDP-1が求められます。ここで、Anを考えると、PDP-1がずっと続くので、
となります。今回Dnは
となるので、後はPを用いて計算するだけです。
最終的な答えは、以下のようになります。
以上で、行列のn乗を求めることができました。手順は多いですが、一つ一つの手順を間違えなければ必ず答えにたどり着くはずです。
こっちの方が普通に計算するより楽ですよね。行列のn乗を聞かれた際は対角化を思い浮かべるようにしてください。
空間の方程式(楕円体)
続いて2つ目の例です。こちらの例はあまり見慣れないと思いますが、図形的に対角化の応用を示すことができるので、しっかり学習していきましょう。
ある三次元の二次形式f(x,y,z)があると仮定します。三次元の対称行列を用いて、f(x,y,z)を以下のように定義します。
これを実際に計算すると、
となります。この式はそれぞれの変数の二次式の和となっているので、a,b,c,dの値によって球や楕円体など曲面を持つ空間図形になるのは何となくイメージが付くと思います。
今回、対称行列をBとする。
ここで、ある直交行列Uを用いて、BがD’=U-1BUと対角化できたとする。ただし、D’は次のとおりである。
直交行列Uを用いて、座標軸(x,y,z) が (x’,y’,z’) に次のように変換できたとしよう。
また、転置を用いると、
と変換可能です。(直交行列の特徴として、転置行列と逆行列が一致することを利用しました。)
が得られます。ここで、
とすると、最終的に次式が得られます。
f(x,y,z)をx’2、y’2、z’2の項のみで変換することができました。①の式と比べるとスッキリしていますよね!この形だったらどういう空間図形になるかのイメージは容易いかと思います。
対角化を利用することで、座標軸を変換することができ、空間の関数を簡単な形で考えることができます!
最後に例題を使って、イメージを定着させていきましょう。
さきほどと同じように、行列Aから対角化行列Dを求めたとします。
とする。また、f(x,y,z)=cとおくと、②の式から
が得られます。
最後に式を整理すると、
となり、楕円体を表す方程式が導かれます。
対角化を用いることで、列ベクトルの成分が一つだけで表されるため、空間の図形が考えやすくなるのです!
さいごに
対角化についてのまとめです。
今回は二つの例を使って対角化の応用を説明しました。行列の対角化を問う問題は多いのですが、その対角化を使って何ができるか考える機会はあまりないと思います。
対角化の便利な点は対角行列の形が簡単なので、n乗の計算が楽になり、空間におけるイメージもつかみやすいです。
今回のお話はいかがでしたか。線形代数を習ったことがあるみなさんなら一度はが聞いたことがある対角化について、少しでも理解が深まれば幸いです。
ここまでお読みいただきありがとうございました。それではまた!
最後におすすめの線形代数の教科書のリンクを貼っておきます。
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