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芸術の片鱗を感じた。[楽園のキャンバス]を読んで。

僕は、元々美術に全く興味がなかった。もちろん博物館などはいったこともあるし、中にある絵も見たことがある。ただ、強い感情をそこから感じたことはなかった。

背景を知らなかったというのもある。人を知らなかったのもある。ただ、僕はこの本を読んで、MoMA(Museum of Modern Art,New York)ニューヨーク近代美術館に行ってみたいと感じた。

そもそも、僕は時間つぶしのためにしか今まで美術館に行きたいと思ったことがない。それを覆すほどのインパクトがこの本にはあった。

 

この本を読むまでは、僕はピカソに対して

「あの名前の長い美術界で有名な人か」

としか思ったことはない。ゴッホと並ぶ有名な人。ルソーに至っては、

「名前は聞いたことあるが、ほぼ知らない。」

もちろん、絵が何があるかとかも知っているわけがない。ゴッホはひまわりぐらいなものだ。

 

この本を読んで、美術の知識が欲しいと思った。時間を無駄にしてきたと感じた。わからないものと理解を拒んでいた。

 

本当の意味で「芸術とはなんたるかを」理解できたわけではもちろんないし、それは美術に携わっている人に失礼だと思う。ただ、この本は美術を優しく、わかりやすく言語化してくれている。

僕は最近「地獄の楽しみ方」という本を読んだ。京極夏彦さんが書いた本だ。そこではこう語られている。

「言葉はすべてを伝えることはできない。言葉は不完全なものだ。」

これを読んで、確かにそうだと思ったが、逆に不完全だからこそ理解できるものもある。芸術はその中のいい一例なんじゃないかと今回読んで思った。

題材は、「絵」である。もちろん直接感じ取るならば視覚になるだろう。ただ、視覚から入ってくる情報というのは人間の五感における87%にも及ぶとされている。それに加え、絵の作者が込めた思いやこだわり、背景や情景を感じなくてはいけない。

美術のニューロンネットワークが出来ていない僕ら一般人には荷が重いだろう。

 

だが、一般人にとって情報が多いのならば切り取ってしまえばいい。それを行うことができる唯一のものが「言葉」だと思った。

不完全だからこそ、より重要な情報のみを載せ、僕たちに伝わるように言葉を吟味してくれる。

今回、ルソーが書いた「夢」をめぐる作品となっている。これを僕が何も偏見を考えずに見ると、

「ジャングルのような森の中で裸の女性が指をさしている。」

と陳腐な表現になってしまうが、もちろん筆者は

「作品の舞台は、密林。夜が始まったばかりの空は、まだうす青を残し、静まり返っている。右手に、ぽっかりと明るい月が昇っている。鏡のような満月だ。月光に照らしだされる・・・・・・」

と1ページに渡り、描写されている。これはどこを見ていいかわからない自分と、作品を理解している筆者「原田マハ」さんの圧倒的な知識差によって生み出されていると思う。

筆者の文章は絵を見ながらでも、どこを順番に見ればよいのかを指し示してくれる。

これはありがたいことに僕たち一般人でもわかるように情報を取捨選択してくれている。「言葉」が僕たちを芸術の片鱗につけてくれている。すべては理解できないが、上澄みの上澄みを感じることはできた気がしている。

言葉に感謝しかない。

とここまで芸術と言葉の相性の良さについて語ってきたが、この本の面白い部分は、そこだけではない。

言葉の上でしか認識できなかった、ルソーを、ピカソを、人物として、もっと言うと「友人」の様に感じることができる点だ。あまりにもおこがましいけれど。

ピカソはwikipediaに、フランスで制作活動をした画家、最も多作な美術家と書いてあるが、親近感は感じない。だが、物語を読むと一変する。

僕が感じた感想にはなるが、芸術に対し情熱を持つ、偏見のない人。芸術に対して真剣に向き合っており、自信家。思ったことを正直に言う率直な人。

これが真実ではないと思うが、この本を読み、ピカソを身近に感じることができてしまった。わからないものと拒んでいた自分の壁を取っ払ってくれた。

僕は今後芸術、美術というものを隔てることがなくなる気がする。

 

もちろんストーリーも面白い。あまりいうとネタバレになるから言わないが、こんなに壮大な物語になるとは思っていなかった。もちろんフィクションではあるが、展開が非常に自分好みだった。

 

美術に興味がなかった人はぜひ読んでみてほしい。さっきからルソーの絵ってどんなのがあるんだろうと調べるようになるところまではいくと思う。言葉だけでは満足できなくなるから。

地獄の楽しみ方から引用すると、「物事をたのしめるかどうかは自分次第。」

みんなが読むきっかけになってくれればうれしい。

僕は非常に楽しめた。原田マハさんに感謝を。

文章に残すということも、「永遠を生きる」ということなんだろうか

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